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東京地方裁判所 平成9年(ワ)21790号 判決

原告

青木健志

右訴訟代理人弁護士

平出晋一

被告

京王自動車株式会社

右代表者代表取締役

山武宏

右訴訟代理人弁護士

石川清隆

主文

一  原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一二万六二二五円及び平成九年八月以降本判決確定まで毎月末日限り金四二万六五九四円を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項同旨

二  被告は、原告に対し、金一六万四九一〇円及び平成九年八月以降毎月末日限り金四三万円を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告会社にタクシー乗務員として勤務していた原告が、勤務中、同僚との間で、無線ルール違反の有無をめぐって争いになり、同僚の営業車両のエンジンキーを抜き取り乗務できない状況としたことについて、被告がした懲戒解雇は無効であるとして、被告の従業員の地位にあることの確認及び右地位の継続を前提とする懲戒解雇日以降の未払給与の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実(証拠により認定した事実については、その項の末尾に証拠を掲げた。その余は、当事者間に争いがない)。

1  被告は、従業員約三〇〇〇名、車両台数約一一三〇台を有するハイヤー及びタクシー運送を業とする株式会社であり、東京都区内、多摩地区、神奈川県川崎市、横浜市及び横須賀市を営業区域としている。

原告は、昭和六〇年一一月一九日に被告に入社した後、タクシー乗務員として継続して勤務し、平成九年六月当時、被告の府中営業所に所属していた。

2  被告では、各営業所の実情に応じ、組合支部との協議を経たうえ、タクシー乗務員が被告の無線センターからの配車のための呼出しに応答するルール(以下「無線ルール」という)を定めている(書証略)。

3  平成九年六月二一日の午後八時四〇分ころ、原告は、営業車両に乗務して府中本町駅(以下「駅」という)付近を走行中であったが、無線センターから、東京競馬場清水ケ丘舎宅(以下「清水ケ丘舎宅」という)の客の配車の呼出しがあったため、二回めの呼出しで応答しようとしていたところ、一回めの呼出しで、府中営業所の同僚のタクシー乗務員金沢一夫(以下「金沢」という)が、一回めの呼出しに応答して配車を受けた。

4  その後、金沢が、清水ケ丘舎宅からの乗客を目的地まで送り、駅に戻ったところ、原告と金沢との間で、金沢が無線ルールに違反したか否かで争いとなったが、原告の営業車両が客待ちの列の先頭になったため、原告は、金沢の車両のエンジンキーを抜き取ってその場を離れ、乗客を乗せて乗客の指示した行き先に向かった。

5  金沢は、その後すぐに営業所に電話連絡し、スペアキーを持ってきてもらったが、それまでの約二〇分にわたり、車を動かすことができない状況となった。

6  被告の府中営業所所長は、原告に対し、同年六月二六日、始末書の提出を求めたが、原告は、これを提出せず、同所長は、翌日二七日付けで、原告に対し、六月二八日からの出勤停止を命じた。

その後、原告は、七月一日、本社において、被告から事情聴取を受け、同日始末書を提出した。

7  被告は、原告に対し、同年七月七日付けで、懲戒解雇とする旨の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という)。

なお、被告の就業規則の規定は次のとおりである(書証略)。

第七条 社員は規則及び令達を知らないことを理由として、職務上の責任を免れることはできない。

2 業務上の疑義については上長の指示を受けなければならない。

第九条 社員は職務上の権限をこえ、またはこれを乱用して専断的な行為をしてはならない。

第七八条 社員が次の各号の一に該当する行為のあったときは懲戒する。

1 会社の諸規定又は業務上の義務に違背し、秩序を乱したとき。

(以下略)

第七九条 懲戒処分は次のとおりとする。

1 懲戒解雇

予告期間を設けないで即時解雇し、解雇手当、退職金を支給しない。

(中略)

4 停職

一〇労働日以内出勤を停止し、その期間賃金を支給しない。

(以下略)

また、原告は、被告の退職金規程上、退職金制度の適用がない賃金体系の適用者である(書証略。なお、原告は、平成六年一一月、被告の賃金規程の変更に同意し、これに伴い退職金制度の適用がない従業員となるのに際し、勤続中の同年一二月三日、旧退職金制度による退職金を受領して精算ずみである。書証略)。

8  原告は、本件懲戒解雇の効力を争い、被告の従業員の地位を主張しているが、被告はこれを否定し、平成九年七月七日以降の賃金を支払わない。

三  争点

1  本件懲戒解雇が二重処罰に当たるか。

2  本件懲戒解雇が懲戒権の濫用に当たるか。

四  争点に関する当事者双方の主張

1  二重処罰について

(一) 原告の主張

被告は、原告に対し、本件懲戒解雇に先立ち、原告と金沢との紛争に関し出勤停止命令を発しているが、これは、被告の就業規則七九条四項による懲戒処分であるから、本件懲戒解雇は、二重処罰に該当し、無効である。被告は、原告に対し出勤停止期間中の賃金を支払ったので懲戒処分ではない旨主張するが、原告の賃金は歩合給であり、過去の賃金額により算出した賃金と、実際に勤務した場合の歩合給は質的に異なる。

(二) 被告の主張

被告は、原告に対し、業務命令として出勤停止を命じたに過ぎず、出勤停止期間について賃金を支払っているのであるから、懲戒処分としての出勤停止とは異なり、原告の主張は理由がない。

2  懲戒権の濫用について

(一) 原告の主張

懲戒解雇は、従業員としての地位を喪失させる最終的な処分であり、これを行うためには、対象者の規律違反の種類・程度その他諸般の事情に照らして相当なものでなくてはならないところ、原告の行った行為は、その動機において、他の従業員のルール違反を正すためであり、その態様・損害の程度も約二〇分にわたって金沢乗務員が営業できなかったというものであり、しかもその後、原告と金沢との間では和解が成立しているのであるから、このように軽微な規律違反に対し、懲戒解雇をもってのぞむことは、懲戒権の濫用であり、本件懲戒解雇は無効である。

過去の処分例を見ても、被告は、勤務中に原告を含む従業員二名を呼び出し、刃物を振りかざして脅迫した他の従業員について何ら処分をしておらず、このような過去の取扱いとの比較からしても、平等とはいえず、また、被告が、本件紛争の一方当事者である金沢に対して何の処分もしていないことも均衡を欠き、本件懲戒解雇は無効である。

(二) 被告の主張

タクシーの乗務員は、その前歴、年齢等も様々であり、かつ乗務中には会社が直接指導・監督を行うことができないものであるため、異常事態を含め平素から乗務員間の互助協調をはかることが、利用者へのサービスを円滑に行う上で必要不可欠である。ところが、原告は、自ら本件紛争の直前に一般道を時速九〇キロメートルで走行するという無線ルール違反を犯しながら、金沢乗務員が無線ルールに違反したと曲解し、駅構内という公共の場で衆人の面前で金沢に対して口論を吹きかけ、額を小突く暴力行為を行い、さらにはキーを抜き取って二〇分余りの業務妨害を引き起こし、金沢の車両を公道上に違法駐車状態で放置させた上、会社の事情聴取のため、他の乗務員二名も業務を中止せざるを得ない状況を引き起こした。また、原告は、他の乗務員に対しては注意をしないのに、金沢のみに対して本件のような行為に及んだことは、金沢の内気な性格に乗じたもので、原告と金沢が営業所に戻った後に、金沢の面前で同人の車両のキーを机の上に投げ出したことも同人を挑発する行為で、単に私的な感情を爆発させたにすぎない。本件懲戒解雇の調査の過程で、原告は以前にも他の乗務員に対し原告に無線配車された乗客を誤って乗せてしまったと難詰し、当該乗務員の無線マイクを持ち去った事実があったことも明らかになっている。

結局、原告の行為は、無線ルールを濫用した私的制裁に過ぎないものである。

被告の過去の懲戒例として、平成二年一月、公道上で他の車両の通行方法に激怒して相手方運転手に暴言を浴びせた上、暴力行為に及んだ乗務員が、懲戒解雇相当と判断されたが、真摯な反省が見られたため論旨解雇とした事案があり、また、窃盗行為等を行ったが、任意に退職した乗務員もあるが、被告会社のタクシー乗務員には、退職金制度がないから、そのような乗務員が任意に退職することを認めるのは、会社の取扱いの裁量の範囲内であり、原告との均衡を欠くことはない。

第三争点に対する判断

一  二重処罰に当たるか否かについて

原告は、被告が六月二七日付けでした出勤停止命令は、就業規則七九条四項の懲戒処分としての停職処分であると主張する。

この点につき、被告が原告の懲戒処分について組合の意見を求めた書面には、懲戒日として「出勤停止命令を通告した日」との記載がある(書証略)。しかし、出勤停止命令書自体には、「処分については、追って通知する。」とされており(書証略)、出勤停止命令自体は処分でないことを窺わせる表現がされている上、就業規則七九条四項の懲戒処分としての停職では、「その期間賃金を支給しない。」とされているところ、証拠によれば、被告は、原告の七月分の給与(給与期間は前月一六日から当月一五日、支給日は毎月二五日。書証略)の計算において、出勤停止期間につき、賃金規程三三条一項七号の社責内勤手当を支払うこととし、原告が実際に乗務した五乗務(六月一六日から同月二七日まで)の営業収入三一万八九七〇円を乗務数の割合で除し、六月二八日から本件懲戒解雇前日の七月六日までの出勤停止期間の乗務数四を乗じて社責内勤乗務数に見合う営業収入二五万五一七六円を算定し、両者を合算した営業収入五七万四一四六円を基礎に定率内賃金を計算して原告に給与を支払った事実が認められる(書証略)。

そうすると、被告は、原告の出勤停止期間について、原告の実際の七月分の勤務実績による営業収入を基礎として営業収入相当額を算定して原告が乗務した場合と同程度の給与を支払っており、原告が出勤を停止され乗務できなかったことによる賃金の不支給はないものと同視できる。したがって、被告のした出勤停止は懲戒処分でなく、調査又は処分を決定するまでの前置措置として就業を禁止した業務命令にすぎないと認められ、原告の主張は理由がない。

二  懲戒権の濫用に当たるか否かについて

1  証拠によれば、次の各事実が認められる。

(一) 被告の乗務員の営業収入のうちでは、無線営業による収入も相当程度を占めており、賃金体系の変更後、賃金のほとんどが歩合給となったため、乗務員が、無線の呼出しに応じて配車を受けることが給与の多寡に直結する状況であった(書証略)。また、乗務員の中では、無線の取り方についての不満や苦情も多く、他の無線を取った、また、遠くから無線を取ったなどの苦情があった(証拠略)。

(二) 被告の府中営業所における無線ルールについては、繰り返し組合支部との協議や営業所での掲示が行われてきており、平成九年六月一九日と二〇日に開催された組合支部会でも無線ルールが話題となり、無線センターからの一回目の呼出しに対しては、「五分以内・五キロメートル以内」との無線ルールの説明がされたが、原告及び金沢は、六月二〇日の支部会に出席していた(書証略)。

乗務員が無線ルールに違反した場合は、口頭の注意でも改善されないときは、勤務時に当該乗務員の営業車両の無線のマイクを取り外す制裁が予定されているが、その制裁が行われた事例はない(書証略)。

被告が、被告府中営業所で、平成一〇年七月に実施した記名式アンケート結果では、「駅から清水ケ丘舎宅の無線を一回コールで自分は取っていたか」どうかにつき、回答者四一名中、取っていた者四名、取っていない者三四名、無記入三名であった(書証略)。

(三) 平成九年六月二一日の午後八時五〇分ころ、原告は、営業車に乗務して駅付近を駅方面に向けて空車で走行中であったが、無線センターから、清水ケ丘舎宅の客の配車の呼出しがあったため、無線ルールにより、二回めの呼出しに応答しようとしていたところ、一回めの呼出しで、金沢が応答して、配車を受けたことが無線を聞いてわかったが、その後すぐに、金沢の営業車とすれ違ったことから、金沢が無線ルールに違反したのではないかとの疑問を持った(証拠略)。

なお、金沢が無線に応答したのは、駅に向かうイトーヨーカ堂の角に至る道路付近を走行中のことであり、右場所から、清水ケ丘舎宅までは、所要時間五分を超え、距離は二キロメートルを超える(証拠略)。

(四) 同日午後一〇時五〇分ころ、金沢は、清水ケ丘舎宅からの乗客を目的地まで送り、駅に戻ったが、駅のターミナル内が待機車両で満車のため、最後尾の車両に続いて道路上に停車して待機していたところ、原告が、車から降りて金沢の車両のところまで来て、運転席側窓を半開きにした乗車中の金沢に対し、さきほどの無線配車がどこまでの客だったか尋ね、東池袋までの長距離の客だったことが判明した(証拠略)。

さらに、原告は、金沢が、駅付近のイトーヨーカ堂の角で、清水ケ丘舎宅の配車の無線呼出しに一回目で応答したのは無線ルール違反ではないかと問いただしたところ、金沢は、他の乗務員も一回目で応答していると答えるなどしたため、口論となり、原告は、窓から手を差し入れ、金沢の額を小突いたり、金沢がこれに対し、殴ったなと文句を言ったりしたが、そのころ、原告は、自分の営業車両が客待ちの列の先頭になったため、金沢の乗車していた車両のキーを抜き取ってその場を離れ、その後に来た乗客を乗せて乗客の指示した行き先に向かった(書証略)。

(五) 金沢は、立ち去って行く原告に対し、「青木ばかやろう」と叫ぶなどし、その後すぐに営業所に電話連絡してスペアキーを持ってきてもらったが、それまでの約二〇分にわたり、車を動かすことができない状況となった。金沢は、その後、一一時三〇分ころ、営業所に戻った(証拠略)。

また、原告は、駅から乗客を目的地に送った後、駅に戻ったが、金沢がいなかったため、営業所に帰った。原告が金沢のキーを抜き取ってから営業所に帰るまでの走行時間は、三四分程度であった(証拠略)

(六) 原告と金沢は、同日午後一一時三〇分過ぎころ、営業所に帰庫した後、当直の猪嶋主任らから事情を聞かれ、同主任は、金沢に対し遵守事項を守るよう注意し、原告に対しては、過激な行動に出たことを戒め、今後二度と同様の行為に及ぶことのないよう厳重に注意した上、金沢と原告とに和解の握手をさせ、後日現業長らに報告することと、営業に戻ることを指示した(書証略)。

(七) 被告は、協約上の定めはないものの、前例により、原告を懲戒解雇処分とすることにつき、原告の所属する京王自動車労働組合に対し意見を求め、これに対し、同組合は処分を了承する旨口頭で回答したが、その間、組合が原告に事情を聴取したことはなかった(証拠略)。

(八) 原告は、昭和六〇年一一月に被告に入社した後、本件懲戒解雇日まで、勤続一一年を超え、その間、営業収入及び営業成績が良好な乗務員に対する優良乗務員表彰を四回、優良無事故表彰と無事故表彰を各一回受けており、処分歴はない(書証略)。

2  以上の認定事実によれば、被告の府中営業所における無線ルールとして、平成九年六月二一日当時、無線センターの一回目の呼出しに応答するのは、所要時間五分以内かつ距離にして二キロメートル以内という取決めが存在していたと認められる。そして、金沢がこの無線ルールの内容を正確に理解していたかはともかく、金沢自身、被告の府中営業所長に宛てた報告書で、無線を少し遠くから取ったくらいでここまですることはない旨の内容を記載しており、自分の無線呼出しへの応答に問題があったことを認めており(書証略)、原告が、金沢が無線ルールに違反したと判断したことには、相当な理由があるといえる。

ただし、原告が金沢に対する無線ルール違反を問いただすにとどまらず、金沢の車両のキーを持ち去り、他の乗務員の営業を二〇分にわたり不可能としたことは、行き過ぎた行為であり、懲戒事由に該当するものと認められる。

しかしながら、前記のとおり、本件については、〈1〉 無線営業が乗務員の給与収入に直結するため、無線ルールをめぐるトラブルが生じやすい状況下で、金沢の無線呼出しに対する応答が無線ルールに照らし問題のあるものであったことが契機となっており、原告が金沢が無線ルールに違反したと判断したことに相当の理由があるから、動機において同情すべき点があること、〈2〉 原告の金沢に対する行為の態様は偶発的なものであること、〈3〉 原告が車両のキーを持ち去ったことについても、その結果は、金沢が二〇分間車両を動かせず、また、金沢にスペアキーを届けた乗務員二名が届けた間と事情聴取の間営業できない状態となったにとどまり、公共の交通に障害を生じた事実は認められないこと、〈4〉 本件紛争自体、乗務員同士のものであって、被告の対外的信用を棄損するようなものでなかったこと、〈5〉 原告と金沢は、営業所に帰庫した後、いったんは当直の主任のとりなしにより和解したこと、〈6〉 原告は過去一一年の勤続期間中、数度にわたり表彰を受けるなど勤務態度は良好で処分歴もないこと等の事情を総合勘案すると、被告が原告に対し、懲戒解雇を行うことは、原告の行為の程度と比較して過酷であるといわざるを得ず、本件懲戒解雇は相当性を欠き、懲戒権の濫用に該当するもので無効といえるから、原告は被告の従業員としての地位を有すると認められる。

3  なお、被告は、本件懲戒解雇当時、原告が、平成八年九月にも他の乗務員に対し、同人が原告が配車を受けた乗客を間違えて乗車させたとして当該乗務員の無線マイクを取り外して持ち去った事実が判明していた旨主張し、原告自身、右事実を認めているが(原告本人六八項)、本件懲戒解雇は、原告が、金沢乗務員の営業車両からエンジンキーを抜き取り運行を中止させる等、職務権限外の行為を行ったことを懲戒解雇事由とするものであり(書証略)、右のマイク取外しの件は、これとは全く別の機会における行為であるから、これにより本件懲戒解雇が被告の懲戒権の合理的な行使であることを基礎づけることはできないといえる。

また、被告は、原告自ら、金沢との紛争の直前の時刻に、柳寿司への配車について、無線ルールに違反している旨主張するが、柳寿司への配車は、いったん他の乗務員が配車を受けたが、到着に時間がかかるとして、当該乗務員がキャンセルをした件の再度の配車のための無線呼出しであり、原告自身、客を待たせないようにするため九〇キロの速度で走行したと認めているが、無線ルールは走行速度自体を取り決めるものではなく、原告は、右無線呼出しに対し、二回目の呼出しで応答したとしているから、原告が無線ルールに違反した事実を認めることはできない(原告本人四六項、書証略)。

三  次に、原告の賃金請求について検討する。

原告は、平成九年七月分の賃金不足分として一六万四九一〇円及び平成九年八月以降毎月末日限り月額四三万円の賃金の支払を求めている。

これに対し、原告の給与額は、歩合給部分の割合が大きいため、月々の営業収入に応じて変動があるが、平成九年三月一六日から六月一五日までの三か月分(四月分から六月分給与)の給与総額は一二九万〇二三八円であることが認められ(書証略)、同期間の日数九二日で除した原告の平均給与日額は一万四〇二五円(一円未満切上げ)となる。一方、被告は、原告に対し、前記一認定のとおり、平成九年七月六日分までの給与を支払ずみである。

したがって、被告は、原告に対し、平成九年七月分の未払給与として、七月七日から同月一五日までの九日分一二万六二二五円(一万四〇二五円に九日を乗じた金額)及び平成九年八月以降毎月末日限り月額四二万六五九四円(一万四〇二五円に三六五日を乗じて一二か月で除した金額。一円未満切上げ)を支払うべきものといえる。

また、原告は、本判決確定後についても毎月の賃金の請求をしているが、雇用契約上の地位の確認と同時に将来の賃金を請求する場合には、地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務の提供の受領を拒否して、その賃金請求権の存在を争うことが予想されるなど特段の事情が認められない限り、賃金請求中判決確定後に係る部分については、予め請求する必要がないと解される(東京地裁平成三年一二月二四日判決・判例時報一四〇八号一二四頁参照)から、右特段の事情の認められない本件においては、本判決確定後の賃金請求は不適法であるというべきである。

したがって、原告の賃金請求は、主文第二項掲記の限度で理由がある。

なお、仮執行宣言の申立てについては、本件においては、その必要がないものと認め、これを付さないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢尾和子)

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